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クライミングにおける技術とパワーの関係

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クライミングをしていると、パワーがあるから登れるという言葉をもらう。以前から違和感があったのだが別の一件で、パワーについて誤解がありそうだとわかった。技術とパワーの関係について考察し、クライミングにおける技術向上を改善してみる。

先日同じ山岳会の人(ここではAさんとする)がクラッククライミング中に間違ってテンションをかけてカムがはずれなくなった。このカムは岩に食い込みすぎて、Aさんでは回収できなくなった。夕方で日が落ちかけていたこともあり、私が入れ替わりで登り回収をした。その後お礼を言われたのが”パワーのおかげでできた”ということだった。

この言葉自体は特に悪気があるものではないのだが、以前からクライミングをしているときに指のパワーがあるから登れるあるいは、パワーが違うという言葉に感じていた違和感が決定的になった。

まず技術とパワーについて定義をしてみる。

いまある初期状態(S)から理想とする状態(S’)に移りたいとする。

このとき”技術”とはSからS’に移る手順とする。

S  → 技術 → S’

技術には3つの要素がある。

  • Sを構造としてとらえ、より小さい構造に細分化すること
  • 細分化して構造から弱点をとらえること
  • 弱点にたいして力をかけてA’にすること
    • パワーはこの弱点に対してかける力の大きさとする。

例えばクライミング中であればSは今いるところであり、S’は一歩進んだ状態である。あるいは今回のカムの回収であればSはカムが食い込んだ状態であり、S’はカムが外れた状態である。

カムが食い込んだ件を例にとりながらSからS’への移行を考える。

カムが食い込んだ状態を構造としてとらえる。

ブラックダイヤモンドのキャメロットは4つのカムから成り立つ。この2つ以上のカムが岩の接点にはまっているときにカムは抜けなくなる。構造として細かく分けた結果見えてくるのが岩と接している部分である。この部分が岩に食い込んでいるからカムが外れなくなっている。

弱点をとらえる

外すための弱点は構造の場所として2か所、構造内に2か所で合計4か所の組み合わせがある。

構造の弱点

  • 岩に接しているカム
  • 岩に接しているカムと対角線の場所

構造内の弱点

  • カム

カムが岩に食い込んでいる部分が外れれば当然カムは外れる。よってここに力(パワー)をかけることがひとつの弱点になる。さらにカムと岩のどちらに重点を置くかで分かれる。カムに対して力をかけてカムをはずすならばカムをたたきながらカムで岩を削ってたたき出す。岩ならば岩を削ってカムが外れるスペースを作る。

カムと対角線の場所には岩と間にスペースがある。このスペースにかむ全体が回りこむように叩き込めばカムが外れる。当然このスペースが利用できなければカムははずせない。

力をかける(パワー)

ここまできたら弱点に対してひとつずつ力をかける。弱点に対してはピンポイントで力を入れる作業の正確さと、構造を動かすだけの大きさの力、つまりパワーがいる。

以上のことから”パワー”が必要なのは最後のステップだけということがわかる。

ではなぜ”パワー”があるからはずせたという誤解が生まれるのか、理由としては2つある。

まず一つ目は最後のステップだけみれば確かにパワーが必要であるから。ガチャガチャと力をいいろいろかけていると、構造が見えていなければ適当にパワーをかけているように見える。構造が見えていないとかけている方向性はわかりにくい。しかしかけている事実だけを捉える。

2つ目の理由は全体的なパワーがある人がはずせることが多いから。これは今までと矛盾するようだが実はありうる。たとえば弱点に対して初期構造Sは10個の構造に分割できるとする。このうちの1つに10kgのパワーを加えれば変化してS’になるとする。単純にするためにS全体にかけたパワーは10個の構造に均等に分散されるとする。

弱点がわかっていれば一箇所に10kgの力をかければすむ。しかし弱点が見えていなくてもとりあえず100kgの力をS全体にかければS’に移行する。おっと、パワーがあれば変化するではないか。

これらが誤解の主たる原因であった。今回違和感が晴れたのはカムをはずす動作については2つ目の理由が成り立たないためだ。人が出せる平均的なパワーでカムが外れることはありえない。

クライマーが多少パワーがあるとは言っても、ベンチプレスでたとえれば30kgと120kgの差程度だ。この値はかなりいい加減で自分は120kgも上がらない。キャメロットは耐荷重は1400kgである。人が出せるパワーはキャメロットにとっては10%にも満たず誤差の範囲だ。

話を最初に戻すとAさんがはずせなくて別の人がはずせてもそれはパワーとは関係ない。構造が見えていないか、弱点がわからないか、あるいは正確な作業ができないかのいづれかである。

では誤解がどこで生じているかを判別する方法を考える。

  • 構造が見えていない
  • 弱点がわからない
  • 正確な作業ができない

まず必要な技術について話をしてみる。たとえばカムの構造やカムが食い込んだときの接点の状況についてである。これらを”細かい話”あるいは”難しくてよくわからない”ということであれば、構造が捉えられていないことがわかる。

次にそれらの構造について、自分がしたいとこととどのようにリンクするのか、論理的な変化の帰結について話をする。経験がある人、あるいは仕様やお店の人から説明を受けた人は構造について理解していてもそれが自分の問題とどのように関連付けられているかわからない。

上記がわかっているならば正確な作業ができていないということがもっともありうる。”いやいや、もしかしたら本当にピンポイントに入れ込むパワーが足りないということもありうるのでは”という反論もある。しかし自分のパワーが足りなければ代用する手段はいくつかある。例えば手でだめなら、足や体を使う。あるいはハンマーを使うなど。

以上技術とパワーについて考察してみた。自分ができていないことに対してもよいヒントを与えてくれた。

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